書評9回目 ぬい-その1《雪》
こんにちは、ぬいと申します。これからよろしくお願いします。
初回私が紹介する小説は、百年文庫というシリーズの「雪」という短編集です。このシリーズには、毎回一つの漢字が当てられ、そのイメージに合った内容の短編が、違う作者で三編収録されてあります。私はこのシリーズはなかなか良い試みだと思っており、何作か読んでいます。
そして今回選んだ「雪」というテーマですが、雪国に生まれ育った自分にとっては、雪というもののイメージが掴み易かったように思います。寒いからこそ、人間の温かさ、優しさがかえって身に染みたという想いを、冬の寒さの中で感じる人間は多いのではないでしょうか。
雪は冷たく、時には暴力と言ってもよいような力も発揮しますが、その反面、雪はいつも純白で清らです。その厄介ながらも美しい雪という存在は、雪国の人間に、自然に対しての畏怖と忍耐を与えます。
また収録された三編とも、東北地方の方便が使われていました。聞き慣れない訛りでしたが、そこに私は何か、気取らない、素朴で温かいものを感じました。
そして三作品から私が特に取り上げるのは、由起しげ子の「女中ッ子」という作品です。旅の途中親切にしてくれた夫人・梅子に、ハガキ一つを頼りに訪ねてきた「初」は、その家で女中として働くことになります。その家の男の子・勝見は、初めは初に意地悪だったのですが、初の優しさに触れ、心を許すようになります。勝見は梅子夫人に教育として厳しく当たられており、家に居場所を見出だせないでいました。その孤独な勝見を気にかけ守ろうとする初の愛は、まさに雪の清らかさを持っていたのではないでしょうか。
どの作品も素朴な話ですが、読めば人間の温かさ、奥に潜む清らかさを感じることができると思います。以上です。ありがとうございました。
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