書評29回目 MRX その5 『手紙』
長らく本とはご無沙汰だった大学時代。久しぶりに立ち寄った本屋でこの作品と出会った。東野圭吾さん。よく耳にするお名前だけれど流行り物があまり好きではないわたしは敢えてこの方を避けていた。だけど一冊くらい読んでみよう!と、手にした本作。
私は心を奪われた。加害者の弟が主人公の話である。何か事件があったとき、被害者の心情ばかりを考えがちだが、本作は視点を180度変えてくれた。加害者の弟の心理描写が実にうまい。筆者ですら経験したことのない犯罪という出来事に関する心情を、よくも想像力だけでここまで書けたものだと私は驚いた。読まず嫌いなわたしを一気に彼の世界に引き込んでくれた。それ以来わたしは彼の虜だ。
それ以来中学から途切れていた読書をたびたび楽しむようになった。売れる作家はやはり売れるなりの理由がある。そう思わせてくれる出会いだった。
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